「複雑性PTSDなら脱ぐことなんてできない」のか

複雑性PTSDへの偏見を目の当たりにして
石川優実 2025.01.25
誰でも

中居氏の報道があってから、被害者とされている方への誹謗中傷が後を絶ちません。

その中でも、「複雑性PTSDなら写真集なんて出せない」「性被害に遭ったのに水着になったり脱いだりするのなんて無理に決まっている」というものが目につきます。

まず、被害者とされている人が本当にこの方なのか。そうだとして、このフォトエッセイの中で水着になっているのか、ということが私は確認が取れていないということは大前提として。

これはどうしても複雑性PTSDへの偏見が広まってしまうと感じるので、実際に複雑性PTSDであり脱いだ経験のある自分が発信しようと思いました。

ここに書くことは、被害者とされている方がどう、という話ではありませんのでそこはご注意ください。また、私は専門家ではなく複雑性PTSDの一当事者であるということもご理解ください。

目次

  • 単回性PTSDと複雑性PTSDの違い

  • 複雑性PTSDなら脱げない?

  • 他人がトラウマによる行動かどうかを判断する難しさ

結論から言うと、複雑性PTSDであっても水着になったり写真集を出すことは可能です。なんなら、複雑性PTSDの症状によりそのような行動に出ることも少なくないと思います。

まず、複雑性PTSDがどういう病気かご存じでしょうか。PTSDとの違いは?

単回性PTSDと複雑性PTSDの違い

複雑性PTSD(Complex PTSD)と単回性PTSD(PTSD)は、どちらもトラウマに関連する障害ですが、発症の経緯や症状の範囲においていくつかの重要な違いがあります。

単回性PTSD

単回性PTSDは、一般的に一度の非常に強いトラウマ体験(例:自然災害、交通事故、暴力事件など)に対する反応として発症します。この障害の主な特徴には以下があります:

  • 再体験:フラッシュバック、悪夢、侵入的な記憶など、トラウマ体験を再び体験するような感覚。

  • 回避行動:トラウマに関連する場所、人、活動を避ける。

  • 過覚醒:過度の警戒心、過敏な反応、睡眠障害など。

  • 否定的な思考と気分の変化:自己や他者に対する否定的な感情、興味の喪失、疎外感など。

複雑性PTSD

複雑性PTSDは、長期間にわたる反復的なトラウマ(例:児童虐待、家庭内暴力、戦争捕虜など)に対する反応として発症します。この障害は、単回性PTSDの症状に加えて、以下のような追加の特徴を持つことがあります:

  • 感情調節の困難:強い感情の波、怒りの爆発、持続する悲しみなど。

  • 自己概念の変化:強い恥や罪悪感、無価値感、自尊心の低下。

  • 対人関係の困難:他者との信頼関係の構築が難しい、孤立感、他者への過度の依存や回避。

  • 解離症状:現実感喪失、自己分離感、トラウマ体験からの切り離し感。

主な違い

  • 発症の原因:単回性PTSDは一度のトラウマ体験に関連し、複雑性PTSDは長期間の反復的なトラウマに関連します。

  • 症状の範囲:複雑性PTSDは、単回性PTSDの症状に加え、感情調節の困難や自己概念の変化、対人関係の困難などが含まれます。

これらの違いを理解することで、適切な治療や支援を提供することが可能になります。複雑性PTSDはより多面的な治療アプローチが必要とされることが多いです。

複雑性PTSDなら脱げない?

こういった投稿をいくつか見かけたました。

私も性被害に遭ってたら脱ぐ事は出来ないと思ったしPTSDなら尚更無理でしょう…

被害者とされている方がどうかは別として、複雑性PTSDだから脱ぐ人もいるようなものなんですよね、この病気。
自分を傷つけることを積極的に選んだり、被害時と同じような心境になることを選んだり、表に出る行動は人それぞれですが「複雑性PTSDの人は脱がない」はただの偏見です。

長年この症状を自覚できずにやっと一昨年診断された私も、全然知らないことばっかでした。この機会に是非知って欲しいです。そして無知で人をこれ以上苦しめないでほしいです…

"複雑性PTSDの症状には、恐怖、不安、怒りなどの強い感情の他に、自己評価の低下、対人関係の困難、自己認識の歪み、感情の調整の困難、無力感、孤立感などが含まれます。 過去のトラウマが日常生活に悪影響を及ぼすことが特徴と言われ、専門家による心理療法が一般的に治療として用いられます。 "

例えば自己評価の低下から、脱ぐことを選ぶ、という行動をする人間もいます。私がそうで、16歳の時に強姦被害に遭ってから風俗で働いたり、グラビアの世界に入っていくなどがありました。性行為も、積極的にしたいという気持ちではなく、何かを取り繕うようにというか、そうしなければならないと思い込んで増えました。

被害にあったのは自分がだめな人間だからだ、自分に価値がないからだと考え、だったら脱がなければいけないという行動。もちろんこれは人それぞれで、性的なことを極端に嫌悪するようになる人もいると思います。

その時の環境やそれまでの環境、強く出る症状などによって変わってくるのかなと思います。また、自分が性被害や症状を自覚しているかいないかでも大きく変わると思います。

特に自分がトラウマがあるんだとか、被害にあったことを自覚していない状態だと、被害自体を「当たり前のこと」とするために、同じように自分の尊厳が傷つけられる場所に身を置くこともあります。整合性を取るためです。被害が特別なこと、自分を傷つけるようなことであることを受け入れないから、自ら傷を負いに行く。そうするとどんどんと感覚が麻痺してきて、なんとかその時は生きていくことができたりします。

・感情制御困難(感情反応の亢進(気持ちが傷つきやすいなど)、暴力的爆発、自己破壊的行動(やけ酒、無駄遣い、自傷行為など)、ストレス下での遷延性解離状態(別人格がでる、記憶をなくす、気が付いたら遠くに来てしまったなど)、感情麻痺、喜びの欠如
・否定的自己概念(自分を必要以上に卑下する、敗北感、無価値観などの持続的な思い込みで、外傷的出来事に関連する深く広がった恥や自責の感情を持つ)

ここにある「自己破壊的行動」というのはまさにそんな感じだなと思います。

本当に本当に、複雑ででも苦しい症状で、人それぞれなので「複雑性PTSDなら◯◯なはずだ」なんてのは外から目に見える行動にはほぼ存在しないのではないかと思います。

フラッシュバックや回避などのPTSDの症状+先程書いた自己評価の低下や喪失感など、内面での症状は共通しているものがたくさんあると思いますが。

今日もちょうどカウンセリングだったので心理士さんとお話してたんですが、自分から見える世界や価値観が変わってしまうのがこの病気なんですよね。その結果、「普通こういうことはしないのでは?」ということをするようになる。トラウマの再演という言葉も少しずつ広まってきましたよね。

私は自覚して性的な自傷行為はほとんどなくなってきたと思うけど、今も過緊張からくる身体の痛みやどうしようもない喪失感不安感など、ずっと苦しい。でも、少し関わったくらいの人は私がこうやって過ごしていることはわからないと思います。

普通に話せるし、元気にふるまえるし。(特に親しくない人の前では)

例えば私がお酒を飲み歩いている時、一見元気に見えると思う。だけど、実際はお酒を飲んでいる時は症状がひどく出ていてそれを紛らわすためであって、内面はとても苦しい。穏やかな時はお酒を飲まないで済んでいる、ということがあります。(複雑性PTSDはアルコール依存症などとの併発もよく見られるそうです。)

他人がトラウマによる行動かどうかを判断する難しさ

ただ、これは被害者とされる方の話とは全然別の話としてしたいのですが、トラウマの影響で自傷的な行為をしているのだろうな、と思われる人がいたとしても、「それトラウマの影響だからやめなよ」みたいに言うのは違うんじゃないかなと思います。実際そうなのか、本人の本当の選択なのか、その判別って他人には難しいじゃないですか。(自分すらわからないことが多いが)

そうやって他人に自分の選択をコントロールされる感覚をまた味あわせてしまうと、余計頑なになる可能性もあると思う。反動でもっと過激になる可能性も。

だから社会が「みんなトラウマに影響されて行動してる可能性があるよね」という感覚を持ち合わせたりとか、あと自分が苦しさを自覚する習慣を持つようにするとか、あくまでも「自分で傷を自覚した」と本人が思えるようなきっかけや社会づくりが大切なんじゃないかと思う。

だから私は自分の症状や経験を発信してます。これを見て「自分もそうかも?」と思ってもらえたらいいなと思って。

それはあくまで自分で気がつくことが大切だと思うけど、これまでは社会にそういうきっかけや情報自体がなかったと思う。さらに、そこに付け込んでの性風俗やヌードなどへの誘いというものが女性にはあり、それは本当にやめてほしい。傷を深くしてしまい、取り返しがつかなくなる可能性大です。自ら行ってしまうものは仕方ないとして、被害を利用して誘い込むのはもってのほかだと思う。(しかし実際にはめちゃくちゃ多いパターンなのではないか)

ただ、私が思うのは、多くの女性が複雑性PTSDと診断されるまで行っていなくても、近いものを抱えているんじゃないか、ということです。

「服の上から触られる」という被害でPTSDのような症状が出る可能性が50%ほどあるそうです。

性暴力被害者 “半数以上がPTSDの疑い”NHKみんなのニュース

性暴力被害者 “半数以上がPTSDの疑い”NHKみんなのニュース

多分思っている以上にこの状態の女性は多いし、必ずしも他人事ではないということです。私も実際、自分の状態に気が付かず20年ほど過ごしてきました。性暴力を受けたことも、PTSDの症状も自覚が難しいですね、

この機会に、みんなが自分事として考えてくれたらいいなと思います。

***

しかし、簡単に「(複雑性)PTSDなのに◯◯できるわけない」っていう人は、PTSDについてどれくらい勉強したんだ?と感じます。これは想定でしかないけど、代表的な症状のことすら知らないのではないかと思ってしまいます。

当事者だし色々本読んで勉強する毎日だけど、わからんこと沢山ある。すごく複雑なんだもん。まだ人に説明するのも難しいなぁと思う。(みんな出る行動は違うだろうし)

知らない人は、本当簡単に病気について発言するのをいったん立ち止まってほしいです。偏見のほとんどは、無知からくるものだと思います。自分の気軽な発言が、複雑性PTSDの人の症状をさらに悪化させる可能性もあります。(実際、性被害のPTSD発症率が高いのは被害への無理解が大きな要因である、と考えている医療者もいます。)どうか、正しくトラウマ・PTSD・複雑性PTSDのことが知られれば、性被害に遭ってしまってその後苦しんで生きている人たちの心が今よりも少しは楽になるのではないかと思います。

最後までお読みくださりありがとうございました。

石川優実

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