VOL.22自分は水着にならないと価値がないと思っている女の子へ

公営の公園での水着撮影会中止について、そもそもグラビアアイドルってなぜ女性にだけ存在する仕事なのでしょうか?本当は水着になりたくない、という女性も多くいる中で、やりたくないことをやることがなぜ「特権」扱いされるのでしょうか。
石川優実 2023.06.10
誰でも

(公開当初、メールアドレスを登録しなければ読めない設定になっていましたが、若い女性に届けたいという声を多数いただきまして、どなたでも全ての文章を読めるように変更致しました。ご登録下さった皆様ありがとうございます。シェアしていただけたら嬉しいです。2023.6.11)

ニュースを読みました。

「公園としては使用許可を出す際に過激なポーズや過激な水着はだめだと伝えておりますが、それが守られていないとのことなので、公序良俗に反するものと判断し、主催者に対し施設の利用を許可しないことにしました」

主催側があらかじめ伝えられていたルールを守っていなかった、という話だと思いますが、フェミニストが女性の仕事を奪ったみたいになるの、何でもかんでも女性のせいにいつもされるな、と思いました。

水着の撮影会というのは、グラビアアイドルのする仕事の中で一番頼りになる収入かもしれません。

DVDは3ヶ月に一回くらいしか出せないし、その他諸々の仕事なんて一つ5000円とか。舞台とかお芝居、ちょっとしたテレビに出れてもギャラなしなんてこともあります。

頼りにしていた収入が入るはずのお仕事が直前でなくなるというのは、相当痛手かもしれません。悪いのはきちんとルールを守らなかった撮影会主催者ですよね。責任を取るべきではないでしょうか。もしくは、困っている女の子達のために、今回の水着撮影会中止の申し入れに反発している人たちは寄付をしてあげるのが良いと思います。
助けてあげたいなら、単に水着になってなくてもお金を払ったら良いと思います。何に高いお金を払うか、払わないかを決めるのは消費者です。かわいそうだと思うのならば、洋服を着ている女性にも高いお金を払ってあげればいい。何も難しいことではないです。

このレターは、「私は水着になりたくてなっている、自分で主体的に選んで自ら水着になることを望んでいる」という女性に対しては書いていません。そうではなくて、「本当は水着になりたくないけれど、水着にならないと仕事がないから水着の仕事もしている」という女性に書いています。

なぜわざわざこういうことを書くかというと、わざわざ「自分は選んでいる」と言ってくる女性、「女性が自分で選んでいると言っているよ」と言ってくる男性がいるからです。#KuTooという運動をした時と同じように。

私はグラビアの仕事がやりたくなかったので、もうやらなくてよくなった今とても幸せだと思っています。やめることを決めた初期の頃に来たDVDの仕事の依頼を断るのは勇気のいることでした。でも、きちんと自分からやりたくないことを断って本当によかったと今は思っています。

しかし、今回の指摘にあった「性の商品化」は、いつでも「性的対象になれない女性の嫉妬」ということにされ、その指摘を無効化されます。都合の悪いことは本人がどれだけ「望んでいない」と訴えても、根拠なくそれは「嘘だ」ということにされて、「歳をとったババアが嫉妬して若い女性の仕事を潰そうとしている」ということにされます。

また、そういう言説を聞きすぎた世間一般の人たちは、根拠なくそれを事実だと信じてしまいます。性の対象真っ只中にいる女性は、性の対象から抜け出すことができた女性の感じている本当の自由を知らないことが多いし、「男に選ばれること・好かれることはいいことだ」と徹底的に教育されているので、本当に年上の女性は自分たちの若さに嫉妬していると信じてしまいます。(私はそうでした)
また、男性からの好意を受けることを利用することが「賢い女の生き方」だとも教えられるので、多くのバカだと思われたくない人はそのようにします。その評価価値すらも、誰かが勝手に一方的に作ってきた価値観なのですが。

そうして、グラビア経験者の話よりも水着で仕事をしたことのないジジイたちの言うことが女性の本当の思いかのように受け継がれていきます。

それでも、経験者としてきちんと言葉にして残しておくことは絶対にいつか役に立てる日が来ると信じて、私は当事者として書き溜めておこうと思うのです。

***

公営の公園での水着撮影会中止について、まず公園利用のルールを守らなかった主催者の落ち度だと思いますが、その次に話されるべきことは、そもそもそのルールに関してかなと思います。

そもそもグラビアアイドルってなぜ女性にだけ存在する仕事なのでしょうか?
多くの男性俳優が水着にならずに仕事を与えられている状況下で、なぜ一部の女性は水着にならなければ仕事を与えられないのでしょうか。

また、にもかかわらず「女性は水着になれば仕事を得られる」という見方をされるのでしょうか。

本当は水着になりたくない、という女性も多くいる中で、やりたくないことをやることがなぜ「特権」扱いされるのでしょうか。

先日のポッドキャスト内でも少しお話に出ましたが、私がグラビアの仕事をしていた時、私の周りには「自分に自信があるからグラビアの仕事をしている」という女性は決して多くはありませんでした。

どちらかというと、自分に自信のある女の子は水着の仕事をキッパリと断っていたことが多かったです。

また、最初はそうではなくても仕事を続けていく中で、例えば洋服を着た撮影会には予約が入らず、水着になった時だけ予約が入る、さらに下着になったりTバックになったりすると増える、というような状況を繰り返すうちに、「脱がない自分には価値がない」と思い込むようになることもあります。

それは自信というよりも強迫観念に近いようなものだと感じます。

もし、水着にならないと仕事が得られない、水着にならないと仕事が来ない自分には価値や魅力がないんだと思っている女性がいるなら、そんな価値観は一部の人たちだけが勝手に一方的に押し付けてきている評価基準であって、女性自身の存在には何も関係がないんだということをまずはお伝えしたいです。

女性が水着になること、を取り巻くものにはたくさんのダブルスタンダードがあります。
例えば、水着になれないなんてやる気がない、という人がいる一方で、やる気があるなら水着になることになんて頼るな、という人がいること。
例えば、水着にもなれないなんて芸能の仕事をやっていけないぞと脅す人がいる一方で、水着になると受けられない仕事があったり、水着になると今後の芸能生活のギャラが下がることがあること。
例えば、男性俳優は脱がなくても主演を張れるのに、「女は脱げば主演になれるからいいよな」と言われること。
例えば、男性俳優は脱がなくても芝居をやらせてもらえるのに、女性は「芝居やりたいならまず水着をやらないとね」と言われること。
例えば、「女性は水着になれば仕事が得られるのだから優遇されている」と言われるのに、芸能界全体の割合を見ても別に女性が特別多いわけではないこと。
例えば、「需要のある女性しか水着は求められないから」という人がいる一方で、「容姿が良くないので露出を増やせ・水着の仕事をしろ」という人がいること。
例えば、水着は女性の特権だと語られるが、売れると多くの人がやらなくなること。
例えば、「水着にならなくても良い女」とやらと「水着にならないといけない女」とやらを作り出して女を分断する一方、「水着になれるほどの魅力を持つ女」とやらと「水着すら求められない女」とやらを作り出し分断すること。

都合よくその時々によって使われる「水着になるということ」。

今回の撮影会中止のニュースへのコメントで「わざわざ“女性”撮影会というところが、男性の水着撮影会なら何も言わないんだろうということだろう」というようなものを見かけましたが、「男性の水着撮影会」ってそもそも存在しますか。多分ほぼないのではないかと思います。なぜないのか、「需要がないから」という人がいそうですが、そうではなくて「倫理的によくないだろう」と思えるからだと思います。需要はあると思いますよ、普通に。

でも、男性を水着にして鑑賞物にして一方的に楽しむ、消費するという男性差別的な文化が社会にないから、撮影会自体もほぼ存在しないのだと思います。
私は、もし公営の公園で水着の男性の撮影会をしているのだとしたらやはり問題だと思います。(未成年者がいるなら尚更)

でも今、それはほぼ存在していないと思われます。片方の性別のみに、本来その性別と関係のない「水着」というものを結びつけて商品として売り出す。これを「性の商品化だ」と考えることは、大人として必要なことだと思います。

海外では、グラビアのような文化はないと聞きます。なぜないのか、も考える必要があると思います。日本では、昔から当然のようにある中でみんな育ってきました。
当たり前のものを当たり前じゃないかもしれない、と考えることは確かに難しいことです。

でも、もし自分の中に少しの痛みや違和感があるのなら、それを深く深く考えることは、きっとこの先女性として歳をとって生きていく中で有用なことだと思います。

「水着になったら仕事をくれる人、水着になったらお金を払ってくれる人」に感謝している人も少なくないと思います。でも、私はそういう人を堂々と嫌っていいと思います。水着にならないと予約しないぞ、水着にならないと仕事を与えないぞ、なんて思ってる人に媚びる必要はないと思います。水着にならないと自分にお金を払わない人に好かれる必要は、ないと思います。

中にはそれを「女の子を助けている」とか勘違いしている人もいます。でもそもそも、女性が水着にならないと仕事がない、というような状況を作り出したのは一体誰だったのでしょうか。

水着の仕事がしたいですか。洋服を着ていい仕事の依頼が来た時、嬉しいですか。嬉しくないですか。「いやいや水着で出たいんです私は」と思いますか。どちらが「一人の人間として扱われている」と感じますか。水着の仕事をやめたら、自分には仕事が来ないと思いますか。

水着の仕事は「want(したい)」ですか、「have to(するしかない)」ですか。
前者なら、なぜしたいと思うのか一度深掘りするのも良いと思います。そして、この社会に生きる一人の大人として、女性がどのように扱われているのか、知っておくことは大切なことだと思います。
後者なら、どうか脱がない自分には価値がない、なんて勘違いしないでほしいと思います。
また、前者の人も、自分で選んでいるからと言って、脱ぐタイミングや媒体・いつ、どれくらい脱ぐかなどは全て自分が決める権利のあることです。水着になると言う選択を積極的に選択しているからといって、言うことを聞かなければいけない理由などありません。

グラビアの仕事は、「楽な仕事」ではありません。やりたい人にとってはそう思う人もいるのかもしれませんが、体型維持等のことはもちろん、自分の望まない性的なことは自分の精神に大きく負担をかけます。その時は自分で気がつけないこともあります。気がついてしまうと、自分を保てなくなることもあります。楽ではないのに楽だと言われることも、一つの精神的な負担かもしれません。

「女性の仕事を奪った」と、共産党議員を責めるのか。「本来何の関連性もないのに、女性が水着になって仕事をするということを当然かのようにしてきた」この社会自体を考え直すのか。

私は、水着の仕事をすることによって女性たちから自尊心を奪うことになってほしくありません。グラビア時代に「ファン」と名乗る人たちの多くは、ファンといいながら私を見下していました。(もちろん本人に自覚はない)
敬い、愛でるふりをしながら侮辱する、「応援しているんだから脱げ」「応援しているんだからセクハラも我慢しろ」「DVDを買って“やっている”」という、とても対等な関係性ではないものを作らされました。5ちゃんねるのグラビアスレッドみたいなものを見にいけばそれがよくわかると思います。基本、グラビアの仕事をしている女性を一人の人格のある人間として見ていません。見ることができません。だからAIグラビアが出てきた時に「脱ぎたくないなんてことも言わない」というコメントが出てしまう。
「脱ぎたくない」と表明した女性に対して執拗な攻撃がされてしまう。

女の子が水着になりたくないと思っていることをうっすらと気がついているのに、それを無視して水着の仕事にだけ金を払っていることは本当に「助けている」んでしょうか。助けたいなら水着にならなくてもお金払えばいいと思う。

そして、そういう扱いをされることを女性のせいにします。「それだけの魅力がないからだ」と責任転嫁し、自分たちが女性をどのように扱ってきたのか、振り返ることをしようとしません。女性をさらに自責の念に追い込み、さらにいうことを聞くようにし向かせます。これらのことが教育・指南のように扱われます。そのいうことを聞く女性が「いい女」とされます。

誰に好かれたいですか?誰に必要とされたいですか?どんなファンが欲しいですか?どんな仕事がしたいですか?どんな自分でいたいですか?どこか自分に制限をつけていませんか、どこか自分をごまかしていませんか。

こういうことはいつもは男性側に書くのですが、私はやっぱり自分に尋ね続けることで本当の自分の気持ちに気がつくことができたので、今日はグラビアの仕事をしている側の人に向けて書いてみました。

そうなっていることの責任は女性にはありません。しかし、それを変えるには女性側が気が付かなければ変わらない現状があるのが現実です。

お金をもらうことは、自分の自尊心を削らなければいけないことでは本来ありません。「嫌だと思う人がいるからいるから高値が付いている」という人はいつもいるけれど、世の中嫌だと思わないことでお金を得ている人もたくさんいます。多くの起業家は、自分の自尊心を削るどころか満たす方法でお金を稼いでいる。人が嫌だと思うことに高値をつける、逆にいうと高い金で人が嫌がることをやらせるように仕向ける。でもその高いって、とても狭い檻の中での「高い」にもなっています。グラビアがすぐになくなるということはないだろうけど、広い視点から考えていけたらいいなと思いました。

「自分が男性だったら選んでいないだろうな」と思うことの多くは、自分の意思だけではなく社会からの影響を受けている可能性が非常に高いです。答えは外にはないと思います。自分の中にある少しのモヤモヤを大切に大切に扱ってあげてください。

最後までお読みくださりありがとうございました。

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